ベーカー・ハウスドルフの補助定理

というのの証明を考えました。

ベーカー・ハウスドルフの定理

エルミート演算子Gと実数λに対し、

\exp(i \lambda G)  A  \exp(-i \lambda G) = A + i \lambda [G,A] + {(i \lambda )^2 \over 2!} [G,[G,A] ] + …… + {(i \lambda )^n \over n!} [G,[G,……[G,A] ] + …… 

が成り立つ。(J.J.サクライ,現代の量子力学(上)p.129)

λが時間で、Gがハミルトニアンだと思うと、この公式がハイゼンベルグ描像における演算子Aの時間発展を展開する方法を述べていることが分かると思います。

(補題)

次のように定義される3つのオペレータ(G*),(*G),[G,]を考える。

(G*) A = GA
(*G) A = AG
[G,] A = GA-AG

これら3つのオペレータはすべて可換である。

(補題の証明)

まず(G*)と(*G)が可換であることは

(G*)(*G)A = GAG = (*G)(G*)A

から明らか。すると

[G,] = (G*) - (*G) 

のように、[G,]は(G*)と(*G)の線形結合で表せるから、[G,]が他の2つと可換であることも分かる。

(定理の証明)

オペレータ(G*),(*G)の定義より

  (左辺)

= \exp(i \lambda G)  A  \exp(-i \lambda G) 

= \exp(i \lambda (G*)) \exp(-i \lambda (*G)) A 

と書き直せる。 *1 ここで補題より、(G*)と(*G)は可換なので、この式に現れている指数の積は和の指数に等しい *2 から、

= \exp(i \lambda(G*) - i \lambda (*G)) A 

= \exp(i \lambda((G*)-(*G))) A 

= \exp(i \lambda [G,]) A 

= (右辺)

*1:具体的にはexpを多項式に展開すれば分かりますが、こう書き直すのに、GとAが可換である必要はありません。Gを右からかけることを、Gを右からかけるオペレータ(*G)を左からかけるとみなすことで、GとAを交換したことで生じる影響を、交換の事後に任意のタイミングで処理することが可能になったのです。

*2:僕は最初これ以降の式変形を多項式展開のまま実行していました。沙川が、(計算用紙を見ずに)式変形が指数法則であることを見抜いて、この証明と公式の本質を明らかにしてくれました。