岩波統計物理学ゼミ〜ボルツマン方程式にどこで時間反転非対称性が忍び込んだか
いきなりですが、問題です。
メアリーの箱
メアリーは2つの箱と、いっぱいの赤玉と白玉を持っています。
秒の時点では、2つの箱とも、N個の玉が入っています。
秒の時点で箱
に入っている赤玉の割合の期待値を
とします
。すなわち
秒の時点で箱
には、平均
個の赤玉が入っています。
メアリーは、秒(
は整数)の時点で2つの箱からそれぞれランダムに
個の玉を取り出し、取り出したのとは逆の箱に戻します。
を
で表しなさい。
正解はこちら。
箱
ではない箱のことを箱
と書くことにしましょう。
秒での交換操作を考えます。
- 箱
から赤玉が取り出される確率は
です。このとき
は1だけ減少します。
- 箱
から赤玉が取り出される確率は
です。このとき
は1だけ増加します。
だから
。
この漸化式からわかりますが、このシステムは時間反転対称ではありません。操作を繰り返すにしたがって、2つの箱の中の赤玉の比率はだんだん近づきます。"箱からランダムに1個とりだして反対側の箱に入れる"という操作の逆は"反対側の箱からランダムに1個とりだして箱に入れる"ではないんですね。
これを踏まえて、ボルツマン方程式
where
の形をみると、時間反転非対称性が入っているのはメアリーの箱と同じしくみなのがわかります。