岩波統計物理学ゼミ〜ボルツマン方程式にどこで時間反転非対称性が忍び込んだか

いきなりですが、問題です。

メアリーの箱

メアリーは2つの箱と、いっぱいの赤玉と白玉を持っています。
t=0秒の時点では、2つの箱とも、N個の玉が入っています。t秒の時点で箱iに入っている赤玉の割合の期待値を{p_i}(t)とします(i=1,2)。すなわちt秒の時点で箱iには、平均N{p_i}(t)個の赤玉が入っています。
メアリーは、n+0.5秒(nは整数)の時点で2つの箱からそれぞれランダムに1個の玉を取り出し、取り出したのとは逆の箱に戻します。{p_i}(t){p_i}(t-1)で表しなさい。

正解はこちら。

iではない箱のことを箱i+1と書くことにしましょう。
t-0.5秒での交換操作を考えます。

  • iから赤玉が取り出される確率はp_i(t-1)です。このとき{p_i}は1だけ減少します。
  • i+1から赤玉が取り出される確率はp_{i+1}(t-1)です。このとき{p_i}は1だけ増加します。

だから{p_i}(t) = -{p_i}(t-1)+p_{i+1}(t-1)

この漸化式からわかりますが、このシステムは時間反転対称ではありません。操作を繰り返すにしたがって、2つの箱の中の赤玉の比率はだんだん近づきます。"箱からランダムに1個とりだして反対側の箱に入れる"という操作の逆は"反対側の箱からランダムに1個とりだして箱に入れる"ではないんですね。

これを踏まえて、ボルツマン方程式

{\partial \over \partial t}f(\b{r},\b{p},t) + (\dot{\b{r}} \bullet {\partial \over \partial {\b r}} + \dot{\b{p}} \bullet {\partial \over \partial {\b p}} )f(\b{r},\b{p},t) = \Gamma(f) where
 \Gamma(f) = - \int \! \int \! \int d \b{p}_1d\b{p}' d\b{p}' _1 f(\b{r},\b{p},t) f(\b{r},\b{p_1},t) (\b{p},\b{p}_1 | \sigma | \b{p}',\b{p}'_1)  +  \int \! \int \! \int d \b{p}_1d \b{p}' d \b{p}' _1 f(\b{r},\b{p}',t) f(\b{r},\b{p}'_1,t) (\b{p},\b{p_1} | \sigma |\b{p}',\b{p}'_1)

の形をみると、時間反転非対称性が入っているのはメアリーの箱と同じしくみなのがわかります。