タコが歩くってあーた

Underwater Bipedal Locomotion by Octopuses in Disguise
C. L. Huffard, F. Boneka, R. J. Full
Science 307, 1927 (2005)

によると、海底を二足歩行するタコがいるらしい。
サイエンスの公式サイト毎日新聞のニュースを参照すると動画が見られます。いままで想像したことが無いような動きをするので笑ってしまいました。
人類は2足歩行を始めたことで、余った2本の前足が歩行以外のことを好き勝手にするようになり、そいつらの挙動を制御するための膨大な領域が脳に確保されて知能を獲得したといいます。こいつらタコは余った足が6本もあるんで実は知能を発達させているかもしれません。そんで密かに地上に探査艇を送り込んでて「今まで水面上をもけーっと泳いだりたまに潜ってきたりするあの種が実は陸上を2足歩行していることが判明した。この星にタコ以外にも2足歩行する生物がいたとは驚きである」とか言ってるのかもしれない。火星を植民してたりして。

脳に領域が確保されるということについて。
人間の脳の機能分布図は見たことがあると思います。ここが言語野でここが視覚野とか。あの配置は初めから決まっているのではなくて、体が決めているそうです。生まれて、体を動かしてみて、この神経からこんな信号パターンが来てるときにここの運動神経に信号を送るとあっちからの信号パターンがこう変わるぞ(目の前に壁があるときに前に歩くと痛い)、などの経験を積み重ねることで、それらに対応するべき領域が動的に確保されるのです。だから事故で手を失うとその手の運動を司る領域は退化するし、生まれつき指が癒着していた人が分離手術を受けたら、一週間で5本の指に対応する領域ができた、と。もし3本目の腕を手術でつけて適当に神経を繋いどいたら案外使えるようになるかもしれません。ジOみたいに。
ところで人間の脳は4%くらいしか使われてないんで、類人猿やイルカも事情は同じ。二足歩行始めたから脳の容量や運動野などの構造が2足歩行に対応すべく長い年月かけて進化したんではありません。前の段落の話を信じるなら、類人猿の子供がひょんなことから2足歩行を覚えたらそいつの代からもう脳の中には手を司る領域が生じたと推測できます。
人間の脳は変えずとも、新しい体を与えられただけで、人間の脳はその器を満たすように発達し、その器を使いこなすだけの余地があるのです。これまでは新しい体を進化が与えてくれるのを待たねばなりませんでした。僕たちは今、自身に新しい体を与える方法を発見しつつあります。バイオテクノロジーの翼を負い、機械の殻に身を委ね、重力の無い世界へ放り出されても人間は、あっさり与えられたものを使いこなすかもしれません。2足でも2手でもないそれを自分の体として扱う彼らは、進化を遂げたと呼ばれるに値しないのでしょうか。そして彼らは、そうしなければ想像もしえなかったような新しい知性の平原をみるに違いありません。立ち上がった類人猿のように。
(幸いなことに)僕の周りの人は、宇宙に飛び出せば人類は進化するなんてテレビの見すぎとか、進化というのはもっとスケールの長い現象のはずだとか、人体改造は倫理に反するとか言ってくれるのですが。

あなたは今まで2本足で歩くタコを想像できましたか?
かつて物理学の法則だと思われていたもの、たとえば光は3原色からなる、が実は生物学の法則であったと判明する、ということは、そう頻繁に起こるものではないと言い切れますか?
たとえば人類が波長数センチの電波を見ることができたなら、量子力学の発見はこんなにも遅れたでしょうか?


僕が"宇宙"好きなのはだいたいこういった理由です。あと子供のとき読んだ本のせい。




えー。そんな大それた話じゃなくても。ヴァイオリニストは指の運動野が発達してるっていうし。長い竹棒を壁にぶつけないように運んでいるときは竹棒の先まで神経が通っているように感じるし。車の運転すると車が"体のように"感じるし。自らに器を与えれば、脳はその器を使いこなせるだけ発達してくれる、ということです。物理を真剣にやっていれば、そのうち物理法則を文字通り"手足のように"使えるようになるでしょう。というわけで勉強がんばろう。

タコの話からなんで宇宙になるかな。やっぱりタコはすでに宇宙に進出していて人類に、早く進化してともに銀河を目指そうと呼びかけているのかも知れん。そういえば宇宙でタコを見かけたような気がする。パロディウスとか。